「津金澤先生と人形アニメーション」

佐野明子:同志社大学文化情報学部

 津金澤聰廣先生と、たった一度だけお目にかかって、ずっと忘れられなかった思い出があります。

 2006年9月、大阪・十三の第七芸術劇場で、人形アニメーション作家・川本喜八郎の全作品が初めて劇場上映された「RESPECT川本喜八郎」を見に行ったときのことです。故渡辺泰先生(日本のアニメーション研究の第一人者)が、津金澤先生が来ていらっしゃるよと、上映終了後に劇場内でご紹介くださいました。当時、私は大学院生で、ご編著『近代日本のメディア・イベント』などを参考にさせていただいていたため、津金澤先生が人形アニメーションをお好きと知り、嬉しく思ったことを覚えています。

 そして数日後、大きな封書が津金澤先生から届きました。そこには、「川本+岡本パペットアニメーショウ」という、1970年代に行われていた、川本喜八郎と岡本忠成による人形アニメーションと人形劇の自主上映会のチラシのコピーが入っていました。「川本+岡本パペットアニメーショウ」は、1960年代に草月会館で久里洋二や田名網敬一、横尾忠則らが実験的な短編アニメーションを上映した活動と、1980年代以降のサークル上映活動をつなぐ貴重なものとみなされています。そのような貴重なイベントの資料を、たった一度だけ会った大学院生に送ってくださったことに、とても感動しました。

 また、丁寧なお手紙も添えてくださり、アニメーション研究は重要だからがんばってくださいと、激励のお言葉をいただきました。当時は、アニメーションをテーマとして文化系の博士論文を書くことにまだ理解を得にくかった時期でしたから、津金澤先生のお言葉にどんなに励まされたかしれません。博論執筆の大きなモチベーションになり、深く感謝しています。

 竹内幸絵先生に先日お会いした折、このことをお話しすると、貴重なエピソードなのでぜひとお声がけいただき、不躾ながら書かせていただきました。一介の院生にもたいへんお優しかった、津金澤先生のお人柄をお伝えできていますと幸いです。津金澤先生のご冥福をお祈り申し上げます。

(2022年7月1日)