「津金澤先生追想」

熊倉一紗:大阪成蹊大学芸術学部

 津金澤聡廣先生のお名前は、以前から『日本の広告−人・時代・表現』(山本武利先生との共著、日本経済新聞社、1986年)や『広報・広告・プロパガンダ』(佐藤卓己先生との共編著、ミネルヴァ書房、2003年)などで拝見していました。メディア史の分野においてとても有名な先生である、ということは存じ上げていましたが、まさか、研究会でご一緒できるとは思いませんでした。

 研究会では、つねに蛍光ペンを手にし、レジュメの文言にマークされ、真摯に学び続けようとされていた姿勢が印象的でした。また、研究会が始まる前などに、ご著書のチラシや論文の抜き刷りを配られ、成果を出し続けられていたのは、研究者として見習うべきものです。

 2011年に開催された研究会で、初めて、グラフィック・デザイナー里見宗次(1904〜1996)について発表した際には、「里見という人物は大変興味深い。面白いテーマですね」と声をかけていただきました。先生は、戦前に刊行された『プレスアルト』のデザイナー研究をされており、里見をとりあげていました。先生からの前向きなお声がけは、その後の里見研究の後押しとなり、いくつかの論文を発表することになります。また、2013年の研究会にて、博士論文の講評会をしていただいた際は、「熊倉さんは、文章がうまいね」と言っていただきました。もちろん、指導教員の手はたぶんに入っていたのですが…博士論文では、これまでになく文章を見直し、推敲を重ねていたので、先生からの一言がとても嬉しく、また研究者としての「免状」をいただいたような思いがしました。

 先生とは同郷であり、ある研究会の終わり、駅に向かって歩いている際に、ふとそのことを伝えると話が弾み、梅田の地下街に美味しいカレー屋があるのでそこに行きましょうと誘っていただきました。とても気さくで親しみやすかったお姿も偲ばれます。

 コロナ禍により対面で研究会をすることがかなわず、最後にご一緒したのは、もう数年前のこと。もういちど、近況等を報告したかったです。先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

(2022年5月11日)